高齢者に多い疾患

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

❶ 疾患解説

COPDとは

慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、たばこの煙などに含まれる有害物質によって気管支や肺が傷つき、息を吐きにくくなる病気です。肺や気管支に炎症等が起こると痰が絡んだり咳が出やすくなり、酸素を取り込む肺胞の壁が壊れて肺機能が低下していきます。さらに病状が進むと身体に充分な酸素をとりこむことができなくなることがあります。

COPDの原因は

喫煙習慣によって引き起こされることが圧倒的に多く、「肺の生活習慣病」とも呼ばれています。

COPDの症状

主な症状は、慢性の咳と痰、息切れです。痰を伴う咳が続き、空気をうまく吐き出せなくなって、進行すると階段や坂道をのぼるなどのちょっとした運動でもすぐに息切れをするようになります。風邪などがきっかけになって重症化するとのどがゼイゼイ、ヒューヒューと鳴る「喘鳴」が生じたり、呼吸そのものがつらくなり、呼吸困難に陥ったりすることもあります。

COPDは長い時間をかけてゆっくり進行していくため、症状があっても「年のせい」などと考えて放置してしまう人が少なくありません。

COPDと合併症

COPDは気管支や肺胞の炎症だけでなく、肺を含む全身にもさまざまな病気が起こすことが知られています。
肺に起こる病気には、「肺がん」「肺炎」「気管支喘息」のほか、肺が線維化して硬くなる「肺線維症」や肺がパンクして縮んでしまう「気胸」などがあります。肺高血圧症を併発し心臓に大きな負担がかかる場合もあります。

全身に起こる病気は、さまざまな臓器の「がん」や、「動脈硬化」「心筋梗塞」「脳卒中」といった脳・心臓血管系の病気、消化性潰瘍、胃食道逆流症といった胃腸の病気など、多岐にわたっています。さらに「骨粗しょう症」、骨が弱くなることから起こる「椎体骨折」など、生活の質(QOL)を大きく左右する病気を併存することも少なくありません。
また呼吸が苦しく、体を動かすことがつらいことから不安が高まり、「うつ」になる人もいます。

COPDとフレイル

COPDの患者さんは、フレイルを合併するケースがとても多いといわれています。
COPDになると呼吸のつらさなどからあまり体を動かさなくなり、食事量が減少しがちになります。さらに呼吸をするだけでもたくさんのエネルギーを消費する病気なので、低栄養状態に陥りやすくなります。その結果、筋肉量や筋力が低下し、ますます活動量が減ってフレイル(虚弱)が進み、生活機能や心身の活力が衰えてしまう人が少なくありません。日々の生活に注意を払って、フレイルに陥らないように心がけましょう。

監修医師

室 繁郎先生

奈良県立医科大学呼吸器内科学講座 教授

<略歴>
1989年京都大学医学部卒業、田附興風会北野病院内科、
京都大学医学研究科博士課程を経て1998年カナダ マギル大学ミーキンス・クリスティー研究所研究員。
2001年帰国後、京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学講師・准教授を経て2018年4月1日より現職。

<その他>
2005年第42回ベルツ賞1等賞(共同著者)、2011年第20回ニューモフォーラム賞、2014年日本呼吸器学会熊谷賞
日本内科学会総合内科専門医・指導医・評議員、日本呼吸器学会常務理事・専門医・指導医・保険委員会委員長、第53回呼吸器学会学術講演会事務局長

<著書>
COPD診断と治療のためのガイドライン第5版 責任編集委員(2018年出版)・第6版 副委員長(2022年出版)
喘息・COPDオーバーラップ症候群の診断と治療の手引き (2017年出版)作成委員、(改訂版)委員長(2024年春出版予定)

※2024年当時の情報となります

❷ 治療解説

COPDの治療

低下してしまった肺の機能を完全に健康な状態まで戻すことはできませんが、禁煙や薬物治療などでこれ以上悪化しないようにしたり、症状を和らげたりすることは可能です。

西洋医学的な治療

最優先で行うべき治療は、喫煙者はたばこをやめることです。禁煙をすると咳や痰、息切れなどの症状が軽くなるだけでなく、肺機能の低下がゆるやかになります。禁煙する自信がない、禁煙が続かないという場合は、医療機関が開設している禁煙外来を利用しましょう。
その上で、気管支拡張薬を中心にした薬物治療を行います。COPDの治療で使用する気管支拡張薬には、長時間作用性抗コリン薬と長時間作用性β₂刺激薬があり、併用することで相乗効果が期待できる場合もあります。気管支喘息を合併している場合は、吸入ステロイド薬の使用を検討します。
また、呼吸困難を改善したり残存呼吸機能を維持したりするため、運動療法や呼吸訓練などの「包括的呼吸リハビリテーション」も行います。

こうした治療をしても呼吸困難や低酸素血症が続く場合は、高濃度の酸素を発生させる器械を使って酸素を吸入し、呼吸を助ける「在宅酸素療法」を行います。
さらに呼吸不全が進行して二酸化炭素が血液中に過剰に貯まる場合は、二酸化炭素を効率よく吐き出せるようにマスクタイプの人工呼吸器を使用することもあります。

漢方医学的な治療

漢方医学では、フレイルの兆候である「疲れやすくて、体力がない」といった症状を、エネルギー(気)や栄養(血)が不足した状態と捉えています。これらを補う作用を持つ補剤で、食欲や体力を回復させ全身状態を改善することで、COPDの進行を抑えたり、フレイルに歯止めをかけたりすることが可能です。咳嗽(がいそう)※などを伴う場合は「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」が、その他「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」や「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」といった補剤が使われます。
また胃腸の調子が悪くて食欲がなかったり、低栄養で食事の摂取量を増やしたい場合には、「六君子湯(りっくんしとう)」が適しています。

症状の緩和では、咳を鎮める「清肺湯(せいはいとう)」や、咳だけでなく喉の炎症にも効果がある「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」などが処方されます。

※気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生態防御反応(日本呼吸器学会咳嗽ガイドライン定義)

COPDのセルフケア

肺機能が低下している人が、日常生活で心がけたいことをあげてみましょう。

<禁煙>

先述したように、COPDの病状の進行の抑制や、呼吸困難の緩和などが期待できます。そのほか、がんや心血管疾患などのリスク低減にも期待できるので、率先して取り組みましょう。

<運動>

COPDを完全に治すことはできなくても、筋力をつけることで息苦しさを改善し、良い状態で暮らすことが可能です。日々の生活で積極的に体を動かしましょう。体力を維持することは、さまざまな合併症の予防にもつながります。
無理なく活動量を増やすことができる運動は、ウォーキングです。柔軟体操や筋力トレーニングもおすすめです。
ただし、病状によっては運動を避けたほうがいい場合もあるので、必ず医師に相談してから行うようにしてください。

<食事>

低栄養はCOPDやフレイルを増悪させてしまうため、必要な栄養をバランスよく摂りましょう。特に筋肉のもととなるたんぱく質は、魚や肉、卵、大豆製品などで欠かさず摂るように心がけてください。

<体調管理>

COPDの患者さんが風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったり、肺炎を起こしたりすると、「急性増悪」といって肺機能が急激に低下する危険があります。日ごろから手洗いやうがいをするなど、感染対策を徹底しましょう。
インフルエンザや肺炎球菌RSウイルスの予防接種を受けることも大事です。

COPDでは、禁煙、運動、バランスの取れた食事、体調の管理が欠かせません。毎日の小さな工夫が、より健康な日々を築く手助けとなります。医師や専門家を頼りにして、無理なく始められることからスタートして少しずつ改善を実感しましょう。

監修医師

相良 博典先生

昭和大学医学部内科学講座(呼吸器・アレルギー内科学部門)主任教授

<略歴>
1987年3月 獨協医科大学医学部卒業
1987年5月 獨協医科大学内科学(アレルギー)入局
1992年8月 順天堂大学医学部 免疫学 研究生(~1994年3月)
1993年3月 獨協医科大学大学院医学系研究科卒業
1995年11月 英国サザンプトン大学・内科学免疫薬理 リサーチフェローとして留学(~1997年11月)
2001年4月 獨協医科大学内科学(呼吸器・アレルギー)講師
2005年1月 WHO Collaborating Center, Board member
2007年4月 獨協医科大学内科学(呼吸器・アレルギー)准教授
2009年4月 獨協医科大学越谷病院 呼吸器内科 主任教授
2013年4月 昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授
2015年7月 WHO-GARD Board member[Planning Group(各国政府機関 担当)]
2016年4月 昭和大学病院 呼吸器センター長
2017年4月 昭和大学医学部内科学講座 講座主任、昭和大学病院 副病院長
2018年4月 昭和大学医学部統括内科学講座責任者:Chairman
2020年4月~ 昭和大学病院 病院長

<専門>
喘息、COPD、呼吸器感染症、免疫学的呼吸器疾患、臨床アレルギー学、関節リウマチ、慢性咳嗽

<主催学会>
2019年6月 第68回日本アレルギー学会学術大会 大会長
2022年11月 第31回国際喘息学会日本・北アジア部会 大会長
2023年7月 第4回日本喘息学会総会学術大会 大会長
2023年11月 日本呼吸器学会関東地方会 大会長
2024年5月 第54回日本職業環境・アレルギー学会総会・学術大会 大会長(予定)

<資格・役職>
日本内科学会 認定医、総合内科専門医、指導医、評議員
日本呼吸器学会 呼吸器専門医、指導医、代議員
日本アレルギー学会 専門医、指導医、理事
日本職業・環境アレルギー学会、理事
日本喘息学会 理事
国際喘息学会日本・北アジア部会 常任幹事
日本化学療法学会 評議員
日本リウマチ学会 リウマチ専門医、指導医
日本リウマチ財団リウマチ登録医
日本老年医学会 老年医学専門医、指導医
日本医師会 認定産業医
日本感染症学会 ICD (Infection Control Doctor)
日本静脈経腸栄養学会 TNT(Total Nutritional Therapy) 認定
日本禁煙学会 禁煙専門指導医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

※2024年当時の情報となります

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